大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和62年(ネ)2425号 判決 1988年7月29日

控訴人 中戸川克尋

右訴訟代理人弁護士 船崎隆夫

赤井文彌

山田秀一

清水保彦

小林茂和

被控訴人 平塚信用金庫

右代表者代表理事 笹尾弘

右訴訟代理人弁護士 外池泰治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

一  当裁判所もまた、被控訴人の請求は全部正当であり、認容すべきものと判断する。その理由は、次のように付加するほかは原判決理由説示(判決書中一一丁裏五行目「今井謀」を「今井某」に、一二丁表九行目「真成に」を「真正に」に改める。)のとおりであるから、これを引用する。当審における証拠中には、この認定判断を覆すに足りるものはない。

二  本件における最大の争点が、控訴人が被控訴人との間に大和田の連帯保証人となる本件信用金庫取引契約を締結したかどうかにあることにかんがみ、原判決理由説示(特に、原判決書中一一丁裏初行から一二丁表八行目までの括弧書き部分)を敷衍する趣旨で、当審の証拠も加えて以下の説示を付加する。

甲第一号証の一が本件信用金庫取引契約書であり、その連帯保証人欄の住所・氏名が控訴人の自署によることは、証拠上明白であり当事者間に争いがないものといえるところ、控訴人の主張は要するに、これは本件取引とは全然異なる取引(以下「別件取引」という。)に際して昭和五六年五月一二日に作成された書面であり、その日付欄が空白であつたことを奇貨として被控訴人が昭和五七年九月三〇日の作成であるかのように補充して変造したというものである。そして、その最大の論拠は、乙第一号証中の第一条の右側の余白に被控訴人職員今井が記載した「五七・九・三〇宮田代理に確認、担保提供者は信用金庫取引約定書に記名押印の必要なし、設定契約書のみで有効の由」なるメモ書き(以下「本件メモ」という。)であつて、これは別件取引において今井が甲第一号証の一の方には控訴人の母公子の記名押印が不要であることを宮田に確認したものであるというのである。しかしながら、本件メモの意味が甲第一号証の一の方には控訴人の母公子の記名押印が不要であることを宮田に確認したものであることは明らかであるけれども、今井がこれを記載したのが何時であるかは別論であつて、その記載自体からして昭和五七年九月三〇日に書かれたと見るのが素直であり、≪証拠≫並びに弁論の全趣旨に徴するとき、本件メモは、別件取引において大和田の債務につき控訴人は根抵当権設定者兼連帯保証人であつたが、公子は根抵当権設定者だけで連帯保証人ではなかつたところ、本件の取引に際して追分支店の今井が本店の宮田に対して公子にも連帯保証人になつて貰わなければならないかどうかを問い合わせてみたら、別件取引において担保を提供しているだけの公子についてはその必要がない旨の回答を得たので、当日すなわち昭和五七年九月三〇日にこれをメモしておいたものにすぎないと認めることができ、原審における控訴本人の供述はこの認定を覆すに足らず、他にこの認定に反する証拠はない。要するに、昭和五六年五月一二日の段階でその根抵当権設定契約証書の余白に本件メモのような記載を残すなどという必要はないし、そもそも「五七・九・三〇」などという将来の本件取引と奇跡的に合致する数字を書きうるはずもない。控訴人の主張・供述は遁辞というべきである。

三  よつて、被控訴人の請求を認容した原判決は相当である

(裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 安國種彦 伊藤剛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例